台北に着く頃には土砂降りになっていた。
到着の夜に降られるとどこでも気分が挫かれるものである。
まして台北とあっては。
一番安い國光バスに飛び乗ると、薄暗い座席に腰を下ろす。
バスの屋根を雨粒が叩く音が響く。
誰も声や物音を立てない。
携帯に怒鳴る広東語も聞こえない。
「・・・。」
約1時間後、台北駅に到着した。
24時を回っているのに大堂には人がいる。
しかし、やはり不気味な静けさである。
掃除用のカートがガラガラ言う音が高い吹き抜けに響いていた。
安宿は駅の北西、歩いて5分程度の所に集中している。
雨に濡れそぼって大道をわたる。
ちょっと寒い。
東京より気温が低いんじゃないだろうか?
重い荷物に呪いの言葉を浴びせながら陸橋を降りる。
安宿街は問屋街の中にある。
真っ暗な道で野良犬の目が時折光って見えた。
この街には自分とこの犬しか生命体がないんじゃないかという錯覚を覚える。
暫く歩くと、奥に宿の看板が見えて胸をなで下ろす。
しかし、相も変わらず夜中に営業している店がない。
襟首をさすってグッショリ濡れた手でエレベーターのボタンを押すと
ゆっくり光の数字が降りてきて
ガタンと音を立ててステンレスの扉がやや乱暴に開いた。
・・・やっぱり台北、あまり好きになれない。